万歩計日和
文/写真・mizugame
02.05.17(金)
高平哲郎さんのこと(8,230歩)

昨日の話から続くからね、今日は。

テレビ・ドラマを通して知ったアメリカの文化、習慣、電化生活にカルチャー・ショックを受けたぼくに、ある日アメリカが一歩近づいてきた。

隣に日本人の奥さんを連れたアメリカ人軍曹が引っ越してきたからだ。

顔つきは思い出せないが、とても優しい軍曹さんだった。外から戻ったぼくとたまに家の前で顔を合わると、彼は話しかけ、にこにこと迎えてくれた。でも、赤ら顔の体格のいい異人に英語で話しかけられても、鬼に遭遇したような恐怖心と恥ずかしさしかなく、ぼくはいつも逃げ回っていた。

彼が誕生日やクリスマスにプレゼントしてくれたハーシーのチョコレート、リッツのクラッカー、バブル・ガム、マーマレードなど、典型的なアメリカの味に10才にも満たないぼくの味覚は仰天した。

世の中にこんなにおいしいものがあるなんて。

食べ始めて10分もすると、口の中で単なるゴムになる日本製のガムと違い、アメリカのガムは、食べかけを、夜寝るときにベッド脇の柱に貼り付けて、翌朝再び口の中に入れてもまだ甘かった。

人口着色料、人工甘味料、化学調味料がてんこ盛りされたアメリカの味は、今だに舌が鮮烈に記憶しているし、ぼくの心は、テレビ・ドラマと食べ物で、完全にアメリカに占領されてしまった。

ぼくと同年代の東京っ子はみんな同じような体験をしている。昨日見たミュージカル「ダウンタウン・フォーリーズ」の構成・演出家の高平哲郎さんもその一人だ。

1歳年上の高平さんの場合は、映画、演劇好きの裕福な歯科医で育ったために、幼いころから銀座の映画館や劇場に通い続けていたので、ぼくとは比較にならないほど激しくエンタテイメントの洗礼を受けていたわけだ。

高平さんとの出会いは1972年。ぼくはレコード会社の洋楽ディレクター、彼はマッキャン・エリクソン博報堂のコピー・ライターで、晶文社の嘱託編集者だった。

ジャニス・ジョプリンを担当していたぼくにかかった、今編集しているジャニスの本にソノ・シートをつけたいので音源を貸してもらいたい、という電話が高平さんからの最初のアプローチだった。このあたりのくだりは、2月10日、11日付の万歩計日和に書いたね。

高平さんは、その頃、つまりぼくたちがワケも分からずつっ走てきた1970年代の思い出を、朝日新聞社のPR誌「1冊の本」で"ぼくたちの70年代"という回想記で連載している。その連載7回目にぼくとの出会いはこう書かれている。

そこで、ジャニスのアルバムを出していたCBSソニーの担当
者に電話した。出てきたのが磯田秀人だった。電話口で「植草甚一はもちろん、ぼくは晶文社の本のファンで、ほとんど持っています」という心強い声が返ってきた。
ぼくはマッキャンに勤めながら晶文社の嘱託をしている者だと明かし、土曜日の午後に飯倉にあったCBSソニーの本社を訪ねることになった。
レコード・シートの話は数分でまとまった。「近くでお茶でも飲みませんか」ぼくもこの男と別れがたい気がして即座に承諾した。
喫茶店での話は晶文社礼賛で幕を開け、植草甚一の名前をキーワードに、エリック・ドルフィー、チャールス・ミンガス、『フレンチ・コネクション』から東映仁侠映画を経て、『てなもんや三度笠』の話になり、吉本新喜劇にまで及んだ。
実はぼくはこの「吉本新喜劇にまで及んだ」部分の記憶はない。
だが、磯田が「初めてあったその日に吉本新喜劇の話をしたので変な人だと思った」と後述しているので、話したのだろう。ともかくその辺りまでは互角だった。

ところが話が日活ニュー・アクションとロマン・ポルノになった途端に、ぼくは無知をさらけ出すことになる。

きっかけは梶芽衣子の話からだった。もともとは太田雅子だったまではよかったが、『女番長・野良猫ロック』(長谷部安春監督70年)のあたりから聞く一方になる。滑らかな舌からは長谷部安春や藤田敏八の名前が機関銃のように飛び出し、沢田幸弘監督の『反逆のメロディー』(70年)の原田芳雄と藤竜也のシーンを熱っぽく語る。こっちは観ていない。

「じゃあ村川透監督の『白い指の戯れ』は観た?今年の映画だけど」「観ていないです」「ロマン・ポルノをバカにしていませんか?」--すっかり磯田秀人のペースに巻き込まれていた。

う〜ん、これを読むと、ぼくは知ったかぶりばかりする嫌な奴なんだね。

その後、ぼくが高平さんを巻き込み、結果的にはとん挫した「ローリングストーン・ジャパン」の創刊、植草甚一責任編集の雑誌「ワンダーランド」と「宝島」の創刊などがあり、高平さんはコピー・ライターから転身して、雑誌編集長、名インタビュアー、タモリの仕掛け人、テレビの構成作家、ミュージカルや芝居の演出・プロデュースなど、エンタテイメント人生まっしぐらなんだから、人生ってのは面白い。

今では高平さんと会うのは年に1、2回だけど、いつでも気になる人だ。

その高平さんが構成・演出したタップダンス・ミュージカル「ダウンタウン・フォーリーズ」がすごく面白くて、ぼくは、最初から最後まで大口を空けて笑い続けていた。

映画、演劇、テレビ、ミュージカル。高平さんの好きな世界に対する溢れんばかりの敬意と愛に彩られたステージで、少なくともぼくは、一昨年、すぐ隣の青山劇場で観た三谷幸喜さんの「オケピ」の何倍も笑った。

今までに何回か見ている高平さんの演出するステージで、もっとも楽しめるし、人に推薦出来る舞台なので、再演があったら要チェックだね。

本日は、これで店仕舞い。
また明日。

【本日のキーワード】
ワンダーランド
日活ニュー・アクション
日活ロマン・ポルノ

本日の見聞録
・ライブ「ドイツ・バロックの饗宴」川原千真(vn)、加久間朋子(cem)/四谷石響

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