万歩計日和
文/写真・mizugame
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ももちゃんは道具を使って遊ぶのが好き (和泉)
03.07.17(木)
タイちゃんのこと(5,588歩)

昨日、都内を14,630歩移動しながら電車内で読んでいたのが殿山泰司さんの「三文役者の待ち時間」。

殿山泰司さんの日記エッセイは超面白い。

シニカルがにじみ出るユーモラスな関西弁まじりのとぼけた一人コール&レスポンス文は,
読みだすとクセになり止まらない。昭和軽薄体を名乗るころの嵐山光三郎や、椎名誠、山下洋輔、東海林さだおに通じる口語体。

その夜の帰途、ゴールデン街の<まえだ>へ寄ったら、いつものように佐木隆三さんと田中小実昌さんが、いつものようにけたたましく飲んでいて、オレの英語の先生である小実さんは、これをテキストにするッ、とサンフランシスコで仕入れたというJOE・GORESの『HAMMETT』をくれた。おおきにイ!?--さて、ハメットが出てきた関係上ここでミステリのことを書く。なんでもかきいなあジイチャン!?
             「三文役者の待ち時間」より

というような、改行もなくだらだらと続く文章は読み始めるとクセになる。

未入籍とは言え、鎌倉に奥さんがいるにもかかわらず、京都での撮影の時、ある女性に恋をし、彼女の家に、嫁にくれとまで押しかけ、あんたには女房がいるでしょと諭されている。

必ず、女房とは離婚するからと約束をしたものの、鎌倉の女性にはそれが切り出せず、東京の女性は殿山さんを慕って東京に出て来て、赤坂で一緒に暮らすようになり、その後、殿山さんの二重生活は生涯続いた。


1989年5月初旬、「一昨日、殿山さんが亡くなったそうです」と山下洋輔さんに教えられた。

その日、ぼくは、マンハッタンのジャズ・クラブ、スイート・ベイジルにいた。

当時、毎年ゴールデン・ウィーク前後にはマンハッタンのジャズ・クラブ、スイート・ベイジルで山下さんは、フェローン・アクラフ、セシル・マクビーとのニューヨーク・トリオのライブを1週間終え、その後レコーディングするのが恒例となっていた。ちなみに、その年レコーディングしたのは「プレイズ・ガーシュィン/山下洋輔」。

殿山さんの文章が大好きだったぼくは、フリー・ジャズやミステリー好きの殿山さんに、プロモーションと称して、時々会いに伺った。場所は殿山さんの接客場所、赤坂TBS前の喫茶店"一新"。

僕が企画・編集したミステリーの本やジャズ・レコードをお渡ししてはミステリー、映画、フリー・ジャズの話をした。

シャイな殿山さんは、「へ〜、そうなの」、「それは面白そうだね」、「まだその本読んでないけど、どう?」とか、いつも熱心に若造の話に付きあってくれた。

もう一ヶ所、殿山さんの文章を引用する。

エー、みなさま、お寒うございます。また正月でんな、ああイヤダイヤダ、生きるもイヤ、死ぬるのもイヤ。ほなどないするねんジイチャン!?
内閣改造だろうと、円高ショックだろうと、そんなことはオレさまには何の関りもねえことでございまして、とにも角にも相場もやらずテレビもあまり見ないとなれ
ば、毎日新聞を読む必要とてなく、ほんだからしてネエチャンよ、オレはペーパーやついでにウィークリーなんかも見ない日常しているのよ。どうでもいいか。
ほんまは原稿用紙にエンピツでくねくねと字ィ書くのもイヤなんだけど、これが活字になって初めて読むときは、なんだかオノレが出た映画の試写を見るが如き感あり、そこはかとなくスリルもあり----だから、書いてるようなもんですけど、これとてもミナサマからオマエの駄文なんかヤメロッ!というお声があれば、すぐさまホイホイと中止することになっております。どうでもいいんだオレは。
キティレコードのダチからもらったミルフォード・グレイブスの『MEDITATION AMONG US』でも聴くとするか----キャーッ!? ヒイーッ!? ウーン!? ミルフォードにはステージのときも打ちのめされたけど、このレコードでも打ちのめされたぜ。=音楽は世界と人間をその抑圧から解放する力だ!?=ミルフォードの言葉です。
             「三文役者の待ち時間」より

この一文を初めて読んだ時の気分は天にも昇るよう。殿山さんにダチと書かれりゃ、誰だってそうだろうけど。

ぼくはある日、殿山さんに、日本映画についての本を書きません?とたずねた。

殿山さんの返事は「いや〜、それは無理だよ。差し障りのあることばかりだからさ〜、俺が役者を引退してからだったらいいけどね」。

声をかけられた仕事は一切断らず、膨大な映画やテレビにちょい役で出演した殿山さんは、鎌倉の「大奥」には仕送りを続け、赤坂の「ババア」には生活費を渡し続けた。役者を引退して悠々自適に暮らせるはずもなかった。

鎌倉扇ガ谷の浄光寺明寺と京都洛西大原野正法寺。亡くなった後も、この二ヶ所で殿山さんは眠っている。

いつお会いしてもサングラス、ジーパンにサンダルばき。ジーパンの後ろポケットには早川ポケミス。サングラスの奥には、優しげな目。こんなかっこいいジイチャン、他にはいない。そして、ぼくが直接お話することの出来た人の中で、もっともアナーキーな人生をおくったのが殿山さん。

未読の方は、ぜひ殿山さんの本をご一読あれ。ちくま文庫で揃ってます。

本を読むのが苦手な人は、新藤兼人監督の映画「三文役者」をビデオでご覧あれ。タイちゃん生き写しの竹中直人が絶品ですぜ。

ってなことで、本日は店仕舞い。
また、明日。

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殿山泰司

本日の見聞録
・本「三文役者の待ち時間」殿山泰司著(ちくま文庫)

・マンガ「20世紀少年」浦沢直樹(小学館)

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