寺島靖国さんのオーディオ・ルームに置かれたサブ・ウーファー付きアヴァンギャルドTRIOから、火を吹くほどの音が炸裂した。
オールホーン・スピーカーならではの鋭利で直線的な強烈な音を全身に浴びた途端、ある日のことをぼくは思い出した。
舞台は60年代末期渋谷道玄坂上百軒店のあるジャズ喫茶だ。
天井に数メートルのとぐろを巻くオールホーン・スピーカーが自慢のそのジャズ喫茶の扉を開けた途端に、僕の身体に突き刺さったのはラムゼイ・ルイス・トリオの『ジ・イン・クラウド』の脳天を直撃する強烈なリム・ショットの響きだった。
その日の驚きの音体験は今でも忘れられない。
自分が望んでいる音を再生してくれるスピーカーと出会うのがオーディオの醍醐味だと、ぼくは思う。
そのスピーカーを最大限に生かすアンプやプレイヤーを探す旅に出るのがオーディオに踏み出す第一歩だ。
寺島さんの音の好みはハッキリしている。
ピアノ・トリオにピアノはいらないというのが寺島さんの言い分だ。
ぶんぶん弦をふるわせて唸るベース、スティックが当たってかつんかつん響くシンバルからジュワ〜ンと空中に飛び散る響き。
そして、スパ〜ンと切れ味鋭いリム・ショット。
その音を再生したい為に、何千万ものお金をオーディオ・システムに注ぎ込んできた。
その揚げ句に巡り合ったアヴァンギャルドから飛び出すリム・ショットの強烈な響きは、他のスピーカーでは決して体験が出来ない。
ぼくが心底惚れ抜いているコンデンサー・スピーカーの音とは対局にあるサウンドだけどね。
寺島さんとアヴァンギャルドは出会うべくして出会ったお似合いのカップルだ。
いわゆる、いい音を再生したい、という凡百なオーディオ・マニアとは一線を画すジャズ再生オーディオ道まっしぐらなのが寺島流。
なので、いまだかつて寺島さん宅の音を耳にして「いい音ですね」という褒め言葉が出たことがない、と言われている伝説の音を今日耳にしたわけだ。
っで、ぼくはすかさず尋ねた。「寺島さん、この音は寺島さんが再生したい音としては何点位ですか?」
「100点満点だよ」
「え?」
「パーフェクトなんだよ」
「満点なのに、なんで電源工事するんですか?」
「だって、もっと凄い音が出るかもしれないじゃない。その音を聞きたいんだよ」
一目惚れで800万近い大枚を叩いてアヴァンギャルドTRIOを買う決心をした時、寺島さんは、このスピーカーを買うことによって俺は後10年仕事をがんばることが出来る、と、自分に言い聞かせたという。
その上、既に100点満点の音を出しているにもかかわらず、もっといい音を追い求めて自宅玄関脇に電柱(しかも緑色のね)を建てトランスを設置する御年67歳。
ちょっとかっこ良過ぎないか、このオヤジ!
と、一人ごちていると、「寺島さ〜ん、電源落として工事始めますけど、いいですか
〜?」工事責任者、出水電器の島元さんの声が聞こえた。
いよいよ日本オーディオ史上初の電源工事が始まる。
ってなところで、本日は店仕舞い。
工事の続きは、また明日。
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